おみこしの窓 〜バンドのあれこれ〜

音楽、バンドに関する様々なアレコレを書いています

夜に会って寝るだけの関係

朝、目がさめる。布団の中で起きる。布団は柔らかくって、布団は温かい。だけど朝は起きなくちゃ。布団からでて....

 

----待って。

 

起き上がろうとした私の体を布団が引き止めた。布団は上に覆いかぶさり、私の体をすっぽりと覆い尽くしてしまう。

 

----あと五分だけ。

 

あぁ。この「あと五分だけ」という甘美な誘惑に抗える者など、この世に存在するのだろうか?少なくとも私は毎朝この誘惑に負けてしまう。布団の前で私は無力だ。あと五分。あと五分だけ。そう思いながら私は布団に体を委ねる。至福の時間だ。

 

布団とはもう何年もこう言った、夜に会って寝るだけの関係をズルズルと続けている。別に布団とは付き合っている訳ではない。言い方は悪いかもしれないが、私は布団を睡眠欲のはけ口にしていると非難されても仕方のない立場にいる事を自覚している。だが、どうしても布団との関係を切る事を考えられない。一度でも布団で寝る事を覚えてしまえば、体は布団以外で寝る事に耐えられなくなってしまうのは仕方のない事の様に感じる。

 

このまま二度寝してしまいたい。そんな甘い考えが脳裏をよぎるが、時刻は間もなく7時を迎え様としていた。そろそろ起きなくては仕事に遅刻するかもしれない。すでに五分はとうに経過してしまっているが、私はアラームを止めて再び布団に潜り込む。

 

窓から差し込む朝の日差しが私と布団を照らす。穏やかな朝だった。このままずっと布団とこうしていられたらどれだけ幸せだろう。仕事も布団に入ったまま出来たら良いのに。そう思わずにはいられない。布団の中に会社があれば...いやそれは言い過ぎか。さすがに布団の中に会社があったら落ち着いて過ごせない。

 

----ねぇ。

 

あと五分。あと五分だけ。を繰り返し続ける私に布団が声をかけてきた。まだ大丈夫だからと、私は布団を抱き寄せる。しかし、次に布団の口から放たれた言葉は、私の予想だにしないものだった。

 

----私達、もう終わりにしましょう。

 

突然の布団からの宣告に私は言葉を失った。 思わず布団から飛び起きる。布団は目を伏せたまま、黙っている。どうして? と私の喉から掠れた様な声が漏れた。布団の瞳は濡れていた。

 

----知ってるのよ....あなた、たまに酔った勢いでソファーとも寝てるんでしょう?

 

その言葉に私はすぐにハッとした。確かに、私はたまに酔った勢いでソファーでも寝ている。でもそれは決してやましい気持ちではない。お酒を飲んだ後にお風呂に入るのが面倒くさくなって、汚れた体のままで布団で寝るのが嫌だった。それでソファーで横になってたら、気付いたら寝てしまっていて...

 

----言い訳なんて聞きたくない!

 

布団は語気を強めて私の話を遮った。その瞳からは大粒の涙が溢れていた。

 

----こんな事、本当は言いたくなかった。でももう、都合に良い布団で居続けるのは嫌だったの。私にはあなたしかいなかった。でもこの前、ソファーが勝ち誇った顔で私に言ってきたわ。彼、結構歯ぎしりが酷いのねって。そんな一面、私にしか見せて欲しくなかった...

 

私はもう何も言う事が出来なかった。ソファーで寝る事がこんなにも布団を傷つけてしまっていた事に気付けもしなかった。あとソファーは首を痛める事も起きてから気づいた。最低の男だ。涙を流す布団を抱きしめる資格は、もう私にはないのだと悟った。

 

今までありがとう。

そう言って布団は立ち上がり、 部屋を後にしようとしている。咄嗟に、その背中を追いかけて私は叫んでいた。待って!待ってくれ!!俺はお前を本当に....愛してぁぉぁぁぁ

 

あ!

 

と言う夢を見たところで目が覚めた。二度寝してしまっていた。時刻は間もなく9時を迎えるところだった。

 

あと5分だけ....

そう呟いて私は布団に顔を埋めた。布団はいつもと変わらずに私を迎え入れてくれた。ああ布団。